「ただいま」

私は、玄関を開けながら呟いた。誰もいないのだから返事が帰ってこないのは当たり前だ。

自分の部屋に行き、制服をハンガーにかけ、部屋着に着替える。

この後すぐにシャワーを浴びるから別に意味はないのだが。

私は棚に置かれている写真たてに目を向ける。

「ただいま。お母さん、お父さん」

私は微笑みながら言う。

その写真には幸せそうに笑う私の父と母、そして当時6歳だった私が写っていた。

この写真だけが私の手元にあるたった1枚の家族の写真だった。

今でもふと思い返してみれば、あの生々しい香りと死にゆく父と母の下がっていく体温を鮮明にはっきりと思い出すことが出来る。

11年前のあの事件のことも…