ケータイ小説 野いちご

本日、結婚いたしましたが、偽装です。

プロローグ


バージンロードの先には、誰が待っているだろう?


愛しい旦那様が、待っている。


純白のウエディングドレスを着た新婦さんに誓いのキスをする白のタキシードを着た新郎さんは、耳を赤くしてちょっと照れていて可愛いね。


みんなから祝福されて、幸せそうに笑って、
こっちまで嬉しくなるよ。末永くお幸せに。


ブーケトスは、誰の手に?


ああ、幸せいっぱいの空間。



「深雪、深雪。おい、起きろ。朝だ。早く起きろ」


優しくて低い声がする。ううん、朝じゃないわ。

今は昼よ。幸せいっぱいの教会に、新婦の友人として結婚式に出席しているのよ。


もうすぐ、ブーケトスが始まるから、私を引きとめないで。


「おい! 深雪っ! 起きろ!遅刻すっぞ!
おい、佐藤! 」


あれ、祝福モードに包まれていた教会と新郎新婦とその他の招待客の姿に霧が立ち込めながら、遠のいていく。


あ〜、待って!まだ、ブーケを取っていないの!


私、結婚したいの! ちゃんとした、結婚が!


「結婚したい!」


自分の泣き叫ぶような声で、はっと目が覚めた。


「何言ってんだよ。お前、結婚してるじゃねーか。寝ぼけてねえで、さっさと朝メシ食って、会社行く用意しろ。遅刻するぞ」


冷静な声でそう言いながら、切れ長で目付きが悪くて、意地悪な表情が似合う顔が
覗き込んでくる。


「あ、課長。なんで、いるんですか?」


寝ぼけてはっきりしない頭で、そう言うと
重い溜息を吐かれた。


「なんでって、一緒に住んでいるからだろ。
深雪、お前、寝起きが悪いのは治せよ。
ったく、昨日は早く寝かせてやったつもりだけどな」


課長は、ずいっと仰向けになっている私に顔を近づけると、唇に軽いキスをした。


「っ!、な、何すんですか!」


私は、驚きでベッドから起き上がった。


「あ?何って、…まぁ、おはようのキスだよ」


課長は、涼しい顔をしながらさらりと言う。


「おはっ⁉︎ 課長、セクハラで訴えますよ!」


冷徹課長の柄に合わないおはようのキスなんてものをされて、朝から心臓バックバク高鳴らせながら、声を張り上げる。


すると、課長は、ベッドに体重をかけてギシッといわせながら、飛び起きた私の方に身体を傾けた。


「訴えてみろよ。出来るもんならな」


ニヤリと口角を上げて、悪魔みたいに笑ってから、私の唇を強引に塞いだ。


「んっ…」


課長のキスは優しくて気持ち良くて、朝から脳細胞が蕩けてしまいそうになる。


私の唇を開かせて、割り込ませた舌で丹念に私の口内を這わせて、絡ませる。


身体から力が抜けそうになって、ワイシャツ姿の課長の肩にしがみつく。


不本意だけど、課長のキスが上手いのは事実で、私は何度も課長のキスで蕩けさせられている。


「ふっ、たったこれだけで、そんな風になる深雪に、俺のことを訴えれるわけねーだろ」


課長は、キスだけで骨抜きにされている私を見て、自分のキスが上手いことを知っているのか、勝ち誇っているような表情を浮かべる。


その表情は、悪魔そのもので、私は悪魔に魂を売ったのだと、後悔した。


「妻に、夫がこういう事するのは、当たり前だろ?だから、お前も、お前の夫である俺にこういう事をされるのに慣れろよ」



旧姓は佐藤、課長と結婚して、鬼頭 深雪
になった私は、所属する営業部の鬼課長こと
その名も鬼頭 涼平 と一ヶ月前に結婚した。


ただし、互いの利害を一致させて、周りを黙らせるための、愛の無い偽装結婚というものだけれど。







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