それは、前触れもなく唐突でした。

「千花、今日はもう上がりか?」

ナースステーションでカルテの書き込みをしている私に伊吹が声をかけてきた。

「うん、これ書き込んだらもう準夜勤との引き継ぎも済んでるし終わりだよ」

今日は私は日勤で、伊吹は確か診察担当だった。

現在17時30分。

日勤は交代して少し経つし、診察も受付は16時まで。
最近は気候も落ち着いてるから午後は患者さんは少なめ。

「一緒に飯食ってくだろ?」

「もちろん、伊吹の奢りだよね?」

ニコッと尋ねると、フッと笑って伊吹が言う。

「当たり前だろ?お前に出させるわけないじゃないか」

そう言ってわしゃわしゃと私の髪をいじる伊吹に、すかさず文句を言う。

「ちょっと!ボサボサになる!やめてよね。職員通用口でいいんでしょ?」


「あぁ、15分後な?」

そう言うと伊吹も医局に向かって行った。

私も残りのカルテを打ち込んだあとにちゃんとログアウト処理をして、ナースステーションのパソコン前から離れてロッカールームへ行く。

「さて、今日は何を食べさせてくれるのかな」

伊吹とご飯に行くと美味しいもの食べさせてくれるからなと、この時の私はこのあとの事態を全く想像もしてなかった。