私は小さな声で、ただいまと言って家に上がった。

泣きはらした顔を家族に見せないように、そっと自分の部屋に逃げようと思ったのに、今日に限ってお父さんが早めに帰ってきていて、目の前で仁王立ちで怒っている。


「桃、ちょっとそこに座りなさい。」

めったに怒らないお父さんがめちゃくちゃ怒っていた、ああもう門限過ぎてるもんなってぼんやりと思う。
いつもそんなの守ってなかったけど、お父さん門限の時間に家に居ることなんてほとんどないから。


「門限は?」


「8時です・・・」


「で、今何時?」


「11時・・・」


一言づつ話す言葉がなんだか重たくて、さっきビトと別れてきたばかりなのに、いい加減にしてよって思う。



「なにしてたんだ・・・それとその頭どうした?」



「友達の行きつけの美容院で、髪を切ってもらってたの・・・あの・・・カットモデルでタダでやってくれるっていったから・・・」



「それだけじゃないだろ?」

お父さんは、なにか気付いているみたいで、さらに突っ込んで聞く。


「あと、友達がおごってくれるっていうから・・・ごはん食べてたら遅くなっちゃった・・・
ごめんなさい。」


もういいでしょうって逃げたくなったけれど、お父さんはまだ話し終わらずにずっと腕組みをして厳しい顔をしていた。

そんな顔をチラッと見ると、また悲しくなって涙があふれてくる。もうこれ以上追い詰めないでくれと思う。


「友達って男だろう?」

何で知ってるのって思ったら、お母さんが大丈夫よねってかばってくれようとした。

「ちょっと、りんは黙ってて。」


お母さんにまで厳しくそんな風に言うなんて珍しい。



「お前、ビトのファンの子にまた何かされただろ?
さっき事務所いったら、お前の行ってたショーでビトのストーカーが捕まったってきいた。
一緒にいたのは、ビトじゃないんだな?」


あんなに秘密にしようと思っていたのに、もうすでにばれていたんだと思うと、なんだか怖くなった。

でももう関係ないや、きっともうビトと今までのようには会わなくなるのだから・・・



蓮も何かかばってくれようとしたけれど、お前には聞いてないとそれもぴしゃりとお父さんはさえぎる。


「今までは、ビトはべべとジュン君の息子だし、ちゃんと真剣に付き合ってるからと思って目をつぶってきたけど、そういう危ないことに巻き込まれるなら、父さんは反対だ。」


なにいってるんだろう、いまさらそんなこといわれても遅いよ。


「さっき別れてきたから安心してよ!!
別に、ビトのファンになにかされたからじゃないから!!」



私は初めてお父さんにそうやって反抗して、我慢できなくなって2階へ駆け上がってしまった。