・・・・・・っ



サインをして夫婦になったとはいえ
目の前の男性のことを1ミリも知らない

そんな男と二人きりになると
急に鼓動が強く打ち始めた


不安な気持ちは頭も眉毛も下げる


蛇に睨まれた蛙のような
不安と恐怖が入り混じる気分を見透かすように

目の前の男性はギシッと音を立てソファから立ち上がると
部屋履きを脱ぎ捨て隣に座った


「怖がらなくて良い」


頭の上から柔らかく降った声に
全身の毛穴を閉めるように力が入る

肩をギュッと抱き寄せられ
髪を撫でられると

威圧感とはかけ離れた優しい手に
背中をむず痒さが走った


香水か何かだろうか
フワリ漂うこの人の匂いも
優しい手にも
警戒を緩めることはなく

全身に込めた力で
額はしっとり汗ばんで
頬に髪が貼りついた


「緊張してるのか」


フッと鼻で笑う


人形のように固まる私の
顎に手を当てると
クイッと引き上げた


「・・・・・・」


間近で見ると恐ろしく整った顔に
視線ごと囚われてしまった

その一瞬の隙をつくように


フワリと重ねられた唇


・・・えっ


驚きで目を見開くと
長いまつ毛が触れた


吸い込まれそうな漆黒の瞳


・・・ファーストキスなのに


残念な気持ちは
息を止めたせいですぐ払拭され


頭を反らして離れると
荒くした呼吸を笑われる


「鼻で呼吸してないと・・死ぬぞ」


クスッと笑った顔は
口角が少し上がっただけなのに

その妖艶さに意識までも奪われ

またすぐ引き寄せられて
唇が合わせられた