「おはよう」

「おはようございます。
朝ご飯、ちょっと待ってくださいね」

翌朝、いつもの朝のいつもの会話なのに、ぎこちない気がする。

多分それは悠さんも同じだろうけど、いつも通りご飯を食べて準備をして、私たちは車に乗り込んだ。

車の中で会話はなく、悠さんの好きな洋楽が小さく鳴っている。

ほんの数分の距離なのに、それがとても長く感じて胃が痛くなるくらいだった。

『本当は最初から凜を好きだったって言ったら…
契約結婚なんてただのこじつけだったって言ったらどうする?』

ありえない、と思った。

だって悠さんは『女嫌い』。

最初から私のことを好きだったなんて、そんなこと絶対にないと思った。

思い当たるようなきっかけだってない。

私が泣いたから、またリップサービスでそんなふうに言っただけなのかもしれない。


「凛」

駐車場まで着いたとき、降りようとした私の腕を悠さんは引っ張った。

「…帰ったら、ちゃんと話がしたい」

「…はい」

悠さんの顔はとても険しくて、それがどういう意味を表しているのか、私はその心情を読み取ることもできなかった。