目が覚めると、くるみさんが外に出る支度をしていた。
「あ、おはようございます!」
「おはよう、どこか行くの?」
「はい。私思ったんですけど、外に人は少ないみたいですけど、いないわけではないじゃないですか?」
「そうね」
「私と亜希さんが出会ったみたいに声をかけたら同じような人いないのかなぁって思って」
「確かにそうだけど」
「だからちょっと出かけてみます!」

すごい行動力…。と呆気に取られてる間にくるみさんは出掛けて行った。

確かに今まで考えたことが無かった。
それは考える余地もなく驚きの連続だったからだろうか。

私はどうしようか。
藤原さんを探すと言えど、歩き回って見つけれる人ではないのだ。
あの人はタクシーの運転手なのだから。

しかしそうは言ってられない気もする。
実際、この現状を進められるのは藤原さんだけ。
ある意味、日課と化していた散歩は有効手段なのかもしれない。

そう思って、またいつものと同じように外に出た。

今まで意味などなく外を歩いていたが、意味を持って歩いてみると、特に何があるわけでもないこの街に少しの新鮮さを覚えた。

くるみさんはどの辺にいるのかなぁなんて考えながら、歩いていると、藤原さんが居た。

私は運が良すぎるのではないか?
もしかして私は小説の主人公なのではないか?
そしてその小説の作者は少し短絡的になってないか?

など、そんな事さえ頭によぎった。

しかし話しかけないわけにはいかないだろう。
声をかけた。

「藤原さーーん!!」

そう呼びながら走っていくと、藤原さんはこちらを向き、微笑ましい顔を見せた。

「そんなに叫んで、どうかしました?」
そう私に問いかけた。
「あの、聞きたいことが幾つかありまして」

何のことやらと首をかしげる藤原さんに私は続けた。

「この間、藤原さんと話した後、1人の女の子と出会ったんです。それで、その子は気がついたらこっちに来てたみたいで、帰る場所もないみたいなんですよ。」
「それなら、住岡さんの家があるじゃないですか」
そう笑う藤原さん。
「だから、今はそうしてるんですけど、何で私には家があって彼女には家がないんですか?」

そう聞くと、藤原さんは少し困った様な顔を見せた。

「そうですねぇ。まぁこの世界にも色々あるってことなんじゃないですかねぇ。」

含みを持たせたような言い方をする。
この人は絶対なにか知ってると、私は確信した。

「教えてもらえないですか、この世界のこと。」

こうなれば聞く他ない。と私は覚悟を決めた。

「そうですねぇ。」
そう言うと、藤原さんは優しさを含んだ微笑みを止めて黙った。
二人の間に少しの沈黙が流れた。

しかしここで少しでも何か聞き出さないと、今日はたまたま会えたが、次はいつ会えるかなど分からない。

「あの、少しでもいいんです、何か知ってる事を教えてください。」

少し頭を下げながら私は言った。
藤原さんは困ったなぁという顔をしたのち、一呼吸置いてから、話し出した。

「この世界の根本的仕組み何かは私にも説明は出来ません。それは住岡さんも同じでしょう?でもひとつ言えるのは、前にも話した通り、この世界では数多くの機械が働いていて、必要性の低い事は人間がしています。だからこそ、いい加減な仕事をする人も居るってことです。」

つまり、私は運良く真面目なタクシードライバーに出会い、こちらに来たが、くるみさんは運悪くいい加減なタクシードライバーに出会ってしまったのだろう。

そもそもこっちの世界にいること自体が運がいいものなのか悪いものなのかさえ分からないというのに。

きっとこれ以上、聞き出そうとしても藤原さんは何か知ってたとしても答えないだろう。
私が礼を言うと、また微笑んで、車に乗り込み走って行った。

藤原さんは本当に不思議な人だ。
きっとまだ何か知っているのだろう。

しかしながら大多数を機械がこなすこの世界はきっとどこか変だ。

私はまた少し歩いてから家に帰った。
くるみさんはまだ帰ってない様子である。

ご飯はくるみさんが帰ってきたからにするとして、いつものようにペンを握った。

<この世界を作り出すのは、創造か生産か。そんな事は分からない。明日、また呼吸は続く。もっと知りたい、この世界のこと、自分のこと。>

そう書くと、私はくるみさんを待った。