ケータイ小説 野いちご

この作品のキーワード

最低な元カレ専務の10年愛

9.神様のイタズラ

今日はこの前と同じ場所で、徳田さんと待ち合わせをしていた。

車のハザードが点滅している。

また私のほうが遅かったんだな…申し訳ない。

「すみません、お待たせしました」

「いえ。…今日は大丈夫なんですか?専務さん」

気にしている様子の徳田さんに、ニコッと微笑みかける。

「大丈夫です。今日はちゃんと仕事も終わらせてきましたから」

「大変なんですね…専務の秘書ともなると」

そう言いながら、徳田さんは車を走らせた。

この前のことは電話をしてきちんと謝り、仕事を途中で終わらせて帰ったことに専務が腹を立ててあんな言い方をしたんだと嘘をついた。

徳田さんは人がいいから、それを完全に信じ切ってくれているようだった。

「今日は僕の好きなイタリアンのお店に案内したいと思ってるんですが、どうですか?」

「はい。お任せします」

この前あんなに失礼なことをしたのに、徳田さんは相変わらずやさしい。

だけどなぜか、その向こうへと感情が動かない。

それでいいと思っていた。

そのほうが傷つかなくて済むから。

…なのに、今さら複雑な気持ちになる。

こうして徳田さんと一緒にいるのに、『紗知』って呼ぶ翼の声が聞きたくなる。



< 91/ 164 >