そして暫しの放心の後、懲りない私は、いえいえ相当懲りていますが、返り討ちに遭うとも知らずにまたもや失言するのです。

「わたくしもドロドロでしたのよね? その割には別に匂いませんし、体もベタベタしませわ」

手の甲、手首、腕を嗅ぎながら意識してさらりと言いましたが、
「もしかして君は、僕の言った事を疑っているのか?」
と、私をじぃっと見つめながら声のトーンを落とされるレイモンド様。

「疑うだなんて、そんな……」

頭を左右に激しく振りましたが、ホントは願望混じりに少し疑っています。

「エセル、我が家の風呂は気持ち良かっただろう? 匂いも不快感も洗い流せたようで何よりだ」

レイモンド様は、目を細めて冷ややかな笑みを浮かべながら言い放ちました。

「え゛っ?」

「昨夜君は風呂に入ったのだ。汚物まみれの君をそのままにしておくわけにはいかないだろう?」
 
してやったりと言う笑みを見つめながら瞠目し、一瞬言葉を失いました。

「あの……えぇぇぇ!?」
口から泡を吹きそうになりながらも
「わたくし、メイドさん達にも大変な迷惑を掛けてしまいましたのね……」
と何とか取り繕うと、
「ああ、その通りだ、それから僕にも」
レイモンド様は肩をすくめ、片方の口の端を少し歪めました。