おかしい。
何かがおかしい。


「どうしたの?琥珀。」

「いや、なんでもないよ。」

「そう、ならいいけど。不安に思うことがあるなら調べてみるといいじゃない。」

「それもそうだな。艶には全てお見通しだな。」

「私を誰だと思おいで?」


人間界から咲羅の気配が消えた。
黒がついていてくれているから大丈夫だとは思うが、相手が誠蘭と言うこともあって気が抜けない。


「本当にぞっこんよね。確かにあの子は可愛らしいけど神界にだって沢山いるじゃない。」

「確かに神界には沢山いるよ。でも、咲羅じゃないとだめなんだ。なんていうかな、守りたいって思える唯一の存在かな。」

「一筋なのはいいことだけれど、溺れすぎて周りが見えなくなるなら、そのときは私が制止するわよ。よろしくて?」

「わかっているよ。大狐神としての使命はちゃんと果たすから。母上との約束もあるしそこは大丈夫だから。」

「それでこそ蝶蘭の息子ね。一応人間界には私の部下を手配しておいたわ。」

「すまない。ありがとう。」


ここでじっとしてはいられない。
早く咲羅の無事を確認したい。
人間界への門を開こうとすると艶が止めてきた。


「なぜだ。」

「そんな殺気を出して何処へいくつもり?」

「人間界。咲羅を探しに行ってくる。」

「気持ちはわかるけど、ここは私に任せてほしいの。今はあなたに動かれては困るの。」

「分かってる。でもっ…」

「分かってないわ。わかっている人ならここから動かないもの。お願い琥珀、今だけは我慢して。」


俺だって分かっている。
ここを今離れてはいけないのだと。
でも、それでも咲羅に何かあったと思うと…


「そんな顔しないの。もう少しの辛抱よ。」


年に一度の大事な儀式。
毎年この時期になると艶とともにこの儀式をしている。
人間界と神界を結ぶ者としての大切な役割。


本当はこんな事考えてはいけないんだけど。
早く、いち早く儀式を終わらせてくれ、そう強く願った。


と、その時。
ふと黒の気配を感じた。
俺は儀式のことは忘れ、黒の元へ急いだ。
そこにいたのは、巫女装束に身を包んだ咲羅の姿が。


「黒、なぜ神界につれてきた。」