『ちょっと、だけ……こうしてて……』



甘えるように、放たれた言葉と。

胸にうずめられた顔に、どくんと心臓が鳴って。……途端に鼓動が乱れたのを、なるみに知られないように、必死だった。



「あー……もう、マジでなんなんだよ……」



「ひさしぶりに顔を合わせた兄貴に文句?」



「……べつに兄貴に言ったんじゃないから」



「うん、なるちゃんのことでしょ?」



にっこり。

笑ってみせる兄貴のことは嫌いじゃないけど、なるみが兄貴のことを好きだって思うたびに、なんとも言えない気分になる。




「何かあったの?」



「……ってか、なんでいんの?

満月ちゃんそろそろ帰ってくんだろ?」



「満月なら今日は大学の友だちの家。

宅飲みして泊まるから俺は実家に泊まるんだよ」



「俺の質問が悪かった。

……なんで、俺の部屋にいんの?」



隣に自分の部屋あるじゃん。

とっくに家出てるから部屋は使ってないけど、そのままにしてあんじゃん。母さんちゃんと掃除してくれてんだから、いつでも万全に使えんじゃん。



もっかい言う。……なんでいんの?



「たまにはかわいい弟の悩みを、

優しいお兄ちゃんが聞いてあげようかなって」