たとえば特定の誰かのことが気になって、何度も姿を探してしまうとか。

今までの私なら、そんなことをしてしまうのは恋した相手、だけだったのに。



「はぁ……」



下駄箱の扉を閉じながら、無意識に深いため息を漏らした。

週末2日間の休み明けである月曜日というのは、ただそれだけで朝から体が重く感じる。

……でも、今のこの疲労感はそれだけが原因じゃない、と思う。



「おっはよーはすみん!」

「あ……佳柄(かえ)、おはよ~」



廊下で後ろから元気よく声をかけてきたのは、クラスメイトで仲良しの坂下佳柄だ。

色素の薄いやわらかそうな癖毛を揺らしながら隣に並んだ佳柄が、私の顔を覗き込んできょとんと首をかしげる。



「ん? なんか今日のはすみん、元気ないね」

「え、……そんなことないよー」



内心ではぎくりとしつつ、笑みを返した。

朗らか……なんて言葉じゃ物足りないくらい突き抜けて明るい性格の佳柄は、普段のおおらかさからは考え難いけど意外に鋭いところがあるのだ。私はこっそり冷や汗をかく。

う~ん、それにしても佳柄は、ほんといつ見ても元気そうだなあ。今はそのテンション、少し分けて欲しいくらいだよ……。


ふたりで他愛ない会話を交わしながら、廊下を進む。

そうして教室にたどり着いた私は、引き戸のへこみに手をかけようとした。

けれど思いがけず内側から先に開かれたことに驚いて、びくりと動きを止める。



「あ、」

「……あ」



室内からドアを開けたその人と、ほとんど声が重なった。とっさに上げた視線が捉えたのは、見覚えのある力強い瞳。

思わず固まっていた私の背後から、佳柄がひょっこりと顔を出す。