「え。あー、休日出勤の予定はないんですけど、急ぎの業務でしたらうちの部署の主任を介して言っていただければ対応を」
「じゃなくってさ」
「は、い?」

 なおも状況の飲みこみに時間がかかっている私に、彼はさっさと用件を告げた。

「お礼ってほどじゃないけど。こういうのがあるんで」

 それがこの、某人気ホテルのスイーツバイキング招待券だったってわけだ。



 だから、樽見さんと会っているこの時間はお見合いでもなければデートでもない。
 虹の空の対価だ。
 改めてそう思ったら肩の力が抜けた。

 無理に話題を探す気も失せ、飲み物を取ってくるけどなにがいいかと訊く樽見さんにホットのミルクティーをお願いする。

「樽見さんって甘党ですよね」

 踏みこんだ発言に、彼は顔をしかめて視線を逸らすだけで否定はしなかった。そういうところは恥ずかしがっているようにも不器用なようにもみえて好ましかった。
 眼鏡の人は頭がキレて冷徹な印象が強かったけれど、そうでもないのかもしれない。