物心ついた時
私には、母親しかいなかった

母子家庭なんて珍しくない


母は、老舗和菓子店のひとり娘で
決められた結婚相手がいた

でも…

駆け落ちして、生まれたのが私


宮崎 悠樹




駈け落ちまでしたのに
私の父親は、私達を捨てた




女手ひとつ、母はたくさん苦労した




でも、いつも笑っていた




病に犯されても、病院に行かず
私のそばにいてくれた




母の涙を初めて見たのは




亡くなる少し前


母の実家でのこと








「悠樹を… 育てて下さい!
こんな、勝手なお願い…
お父さん!!私が悪かったの!!
ごめんなさい!!!」



余命幾ばくかという
弱った体を見た祖父は
優しい笑顔で、母の背中を撫でた



「子はいつまでも親に心配かけるものだ
幸せなら、いつでも許す気でいたんだ
こんなになるまで、我慢させたのは
きっと、俺なんだろうな…
すまなかった… 奈津樹」



「お父さん!!!」


「会いたかったよ 奈津樹
そして、悠樹」





祖父は、とても優しい人だった