最初、私が小説を書き始めたきっかけはブログだった。
あれは今から5年程前。その頃、私はブログのネタ探しに四苦八苦していた。そんな折、ブログで更新が滞らないように、穴埋めとして考えたのが小説だったのだ。
別に小説家としてプロになりたいとか、そういう大きな野望は微塵もなかった。プロになれないことは自分自身が一番よく分かっていたからだ。

――人は誰しも1冊のベストセラーを書くことができる

と、どこかで聞いたことがある気がする。しかし、プロになるにはベストセラーを1冊書ける程度ではダメなのだ。それを"継続して書ける力"が必要なように思う。私にはその力はない。故にプロにはなれない。そう思っていた。そもそも、このような考えに至る時点でプロには向いていないのだろう。
しかし、プロのように多くの人に読んでもらえなくても、1人でも私の書いた小説を読み、楽しんでくれる人がいれば、それでいい。そう感じていた。



 子供の頃から国語の時間が特別好きだったわけでも、小さい頃から本を読むのがめちゃくちゃ好きだったわけでもない。
むしろ、本に関してはこれまでほとんど読んだことがない、と言っても過言ではない。しかし、妄想をすることはたまにあった。
子供の頃からテレビゲームやアニメが大好きで、ゲームをプレイした後なんかは自身の頭の中で主人公を自分に見立て、オリジナルの物語をよく展開させたものだ。今でもその傾向はある。
幼稚園の頃なんかは、よくヨダレを垂らしていたらしい。まぁ一言で言うと"変わった子"だったのだ。



 話を戻そう。折角書いた小説をブログだけで留めておくのがもったいなく感じた私は、思い切ってPixivに投稿してみることにした。初めてコメントをいただいた時は本当に嬉しくて堪らなかったのを今でも鮮明に憶えている。
それから私は定期的にとはいかないが、不定期でPixivに小説を投稿するようになった。



 何年か経った、ある日のこと。"芸能企画団体UGP"と名乗る創作団体の人からメッセージが届いた。内容は"私を団体のメンバーとして迎え入れたい"というスカウトだった。
正直最初は

――うさんくせぇなぁ……

と思っていた。現にその時、私は内心かなり警戒していた。

――話を聞くだけ聞いて、もし怪しかったらはっきり断ろう

そう思った私は、とりあえず話だけでも聞くことにした。



 話を聞くかぎり、とてもしっかりした所のように感じた。
交流の輪を広げる良いきっかけにもなると考えた私はメンバーになることを承諾した。
後日、その団体の"代表"の鈴木さんという方とSkypeを通じて話すことになった。私の頭の中で色んなイメージが膨らんでいた。

・年齢は40~50代くらい
・真面目で厳格
・学が有り、知識が豊富で弁が立つ

頭の中で勝手に作り上げられたイメージによって、私の緊張感は次第に高まっていった。



 ある日の夕方。仕事帰りに図書館へ寄った、その帰りのことだった。携帯に入れていたSkypeで着信があった。相手は鈴木代表だった。事前に鈴木さんのIDを教えてもらい、登録していたのだ。
緊張しながらも出て、携帯を耳に当てると、若い男性の声が聞こえてきた。明らかに声が私より若い。俗にいう"イケボ"というやつだった。いかにも女性が好きそうな声だ。
イメージとのギャップに驚いた私だったが、その口調の軽さに更に驚かされた。弁が立つ、という点ではイメージ通りだったが。声と話し方だけでいえば"ホストやってます"と言われても分からないだろう。
しかし、話せば話すほど、しっかりした考えを持った人だ、ということは容易に感じとれた。同時に、話しやすい印象を受けた。気さくで面白く、もっと話したくなるような、そんな話し方をする人だった。聞くと年齢は私よりも3つも下だったことを知り、また驚いた。



 入団してすぐは何をしたらいいか分からず戸惑っていた私だったが、1ヶ月ほど経った頃。私はボイスドラマの脚本をどうにか完成させていた。
たまに同人作品を購入していた私は、ボイスドラマという存在も以前から知っていた。
初めての脚本だったこともあり、最初は分からないことの方が多かったが、分からないことは自身で色々調べながら、どうにかこうにか独学で完成させることができた。



 企画書を提出し、団体に所属している声優さんのサンプルボイスを聞きながら、キャラのイメージに合った声優さんを選ぶのはとても新鮮だった。とても楽しくて、実に有意義に感じられた。
1人で黙々と小説だけを書いていた頃にはなかった感覚だった。みんなと1つの作品の完成へ向けて取り組むことがこんなにも楽しいことだなんて思いもしなかった。
私は産まれて初めて、人生において"生き甲斐"を見つけられたような、そんな気がしていた。