「絃ちゃーん、大丈夫?」



あれからしばらく立ち尽くしていた私の目の前に立って、覗き込みながら手を振っているのは葵くんだ。



「そ、そんなわけないでしょっ」



あまりにも顔が近くて、思わず後ずさる。



そもそも、大丈夫なはずがないじゃない。



私以外女の子はいない。



家の中には3兄弟と私だけ。



それに加えて、変な条件付き。



普通ならこんな物件お断り。



けれど、手持ちのお金も一人暮らし出来るほどの金額はないし、私にはここに住ませてもらうほか道はない。



「もしかしてさ、絃ちゃんって男の子に免疫ない?」



「……へっ?」



突然変なことを聞かれて、間抜けな声が出てしまう。



一人っ子で、人見知りで……



今まで男の子と話すことなんて、業務連絡のような事くらいしかしたことない。



ましてや、こんな間近で話したりなんか1度も。



「その反応は図星だねっ。本当、どこまでも絃ちゃんったら可愛すぎ!」



ニコニコと笑う楽しそうな葵くんは、まるで尻尾を振る子犬のように可愛い。



でも、可愛いなーなんて思ってられるほど私には余裕が無い。