しばらくその青年と見つめ合ったのち、先に静寂を破ったのは彼の方だった。





「…そなた…もしや、天女か?」







「へ?」






あまりにも斜め上を行く質問が飛んできたので、マヌケな声が出てしまった。







「…いや、違うな…天女は羽衣を身に纏うと聞く。

そうか、どこぞの姫であったか。藪から棒に申し訳ない。」






(…いやいや、何勝手に自己完結しちゃってんの?!)





(いや、まてよ?どっかの姫って事になってんなら、都合良いじゃん!記憶喪失ってことにして出身を隠して、その間もとの時代に帰る方法を探せば…!!)




文字にすると結構な量だが、このあくどい考えを数秒で頭の中で巡らせた。







「あの…ここは何処でしょう?そして…私は誰?」



とても不安そうな顔を作る。なかなかの演技だと思う(ニヤリ)





「なんと!記憶を失っておられるのか!よく見たら濡れておられるな…もしや、その池に落ちて記憶が…!?

おいたわしや…」





(またこの人勝手に自己完結してる…)




「そうだ、記憶を戻すまで私の御殿に来られると良い。どうじゃ?」



「本当ですか!?ありがとうございます!とても不安だったのです…(泣きそうなふり)

貴方は優しい方ですのね(微笑む)」




青年がハッと息を呑むのがわかった。




(あとひと押し…!)





「…そうであったか…さぞ不安であられたのですな。我が御殿にて休まれよ。ついてまいれ。」





青年は、境内の出入り口の階段へ体を向けた。




が、すぐにこちらに戻す。








「名を申し上げておらぬな。私は、中御門義政(なかみかど よしまさ)じゃ。そなたは?」





「えっと…」




すぐに答えようと思ったが、苗字まで言ってしまうと後々面倒なことになりそうだと気づく。



「苗字は覚えておりませんが、名は輝夜と申します。」






「…なんと!この月夜で出会った美しい女人が輝夜姫とは…!

これは運命でございましょうか…」





まーた1人で自己完結してるし。



まぁ都合良いけど。









ある意味、最初に出会ったのがこの人で良かったかも。









自己紹介を済ませた私たちは、義政さんの御殿へと向かった。