そして運命の日となった。

集まりは午後。
朝食を手早く済ませ、早々に準備に入る。

鏡台には、いつもは並ぶことのない化粧品がたくさん置かれていた。
この日のために、アマンダが店を回って集めたものだという。

「こんなにも……!ありがとうアマンダ、私のために。来月のお給金は少し上乗せしてもらうよう、お父様にお話しておくわね」

「お気遣いありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。知り合いの店ばかりを回りましたので、それほど金額はかかっておりません。それよりも早く準備をしないと。いつもよりも時間がかかりますから」

アマンダに座るよう促され、鏡台の前の椅子に腰掛けると、早速取り掛かった。



誰かに化粧を施して貰うなんて、初めてのこと。
今まで自分でやっていたからか、やたらとこそばゆい。

いつもよりも念入りに、顔に厚く塗りたぐられていく。

「少し目を瞑って頂けますか?」

アマンダにそう言われて、目を閉じた。

この目を開けるとき、私はどんな変貌を遂げているのだろう。
不安と期待が入り混じる。



「……これでよし、っと。化粧は終わりましたわ、ビアンカ様」


ゆっくりと目を開け、その顔を鏡に映す。

アマンダの言う通り、そこに映る自分は、自分ではなかった。
いつもより白い肌、目鼻立ちを強調させたシャドウやアイライン、赤く潤んだ唇……。

さながら男性を魅惑する、魔女のよう。

料理を目当てに夜会に参加していた私はもう、そこにはいない。

「凄いわ、アマンダ」

「髪型も顔に見合うような派手なものにしますわよ。ドレスも情熱的な赤色のものを選びましたからね!あとはビアンカ様の演技にかかっております!」

長いブロンズの髪を編み込み、さらにひとつに上で纏め、辺りに飾りを散りばめる。

いつもは簡単に纏めているからか、額の皮が引っ張られてじんじんと痛いが、我慢しなくては。

そしてぎちぎちにコルセットを締め上げ、赤いベルベットのドレスを身につけた。