バスは再び重い体に鞭打ち、ノロノロと、しかし力強く、僕を街の中心部へと運ぶ。

 活動を始めた人間たちの影が、朝日の出現と共に現れる。

 それにしても、狭い空である。ひとたび移動すると太陽の光は連なった建物に隠れてしまい、少しも姿を見せないばかりか、空全体を黄色に染めて、その存在を暗示させるにとどまっている。

 街の中心部では、沢山の人々が交差し、時間の流れを作っている。交差点にある横断歩道を捉えてみると、軍隊のような行進のようでもあるが、そこまで緊張している風でもなく、ただ、人が多い。

 その中心では、人間を巻き込むように、或いは吐き出すように渦が出来そうなぐらいだ。

 コップの中の不純物が、掻き混ぜられ、回っている……。

 僕はこれから、その渦の中へ、身を投じてゆくのだ。


 ◇


 外は文句の付けようのない、いわゆる快晴だと言って差し支えはなかった。

 バスから降りて、ポケットに挟み込んだ紙切れを取り出し、周りをキョロキョロと見る。


 暫く考えもせずに歩き、ぐるぐると目が回った。僕は少なくともこの瞬間から、高層ビルの下で、上を見るまいと思った。


 目を元の高さに戻すと、よく聞く外資系チェーンではなく、個人で経営しているような古臭い喫茶店が、視界の真ん中に入った。


 店の外には、のぼりが立っている。僕より少し年上だろうか?


「珈琲にしない?」


 そんな紺色のスーツできめたキャリアウーマンが、画角を完璧に操り、プリントされていた。耳元を舐め、囁くように、僕を誘惑する。

 幟(のぼり)がはためく度に、目が霞んでゆく。僕は瞬きをすることで視界を拭った。