「各部署の申請書の締め切りは毎月25日でお願いします。毎回出さない方は必ずいるので、その時はこっちから催促しないと揃いませんので」

総務課の北川さんの横に座り、説明全てをメモにとろうと焦って汚い字をメモ帳に書きなぐった。

「揃ったら全てを課長に渡してください。最後に部長が判子を押してくれたら人事課に回ります」

「はい……」

「次に食材の発注書とレストラン事業部の企画書ですが……」

「はい……」

経理課の仕事よりも総務課は細かい事務仕事がある。引継ぎを始めて3日目だけれど来週から完全に私一人で業務をこなすには不安があった。

プルルルルルルルルル

デスクの内線が鳴った。北川さんは素早く受話器を取ると「はい総務課北川です」と名乗った。

「はい……インクがない? それはそちらで対処して頂けますか?」

どうやら『雑用係』に雑用をお願いする電話のようだ。

「名刺はコピー機の側面に貼ってありますから。そこの会社に電話してカートリッジを持ってきてもらってください……時間もそちらで聞いてくださいね。よろしくお願いします」

受話器を置くと北川さんは「まったく……」と呟いた。

「黒井さんもどうでもいい仕事には応じなくていいですから。総務課は暇じゃないんで」

「そうですね……」

北川さんがそう言っても不安になるだけだ。少し前の北川さんだって社内の雑用を引き受けていたのだから。
早峰フーズの総務部総務課に『雑用係』があることは周知の事実だ。契約社員が総務部総務課に配属されるということは雑用係とイコールで、それ故に長続きしないのが当たり前になっていた。そのいじめとも言える不名誉な係に北川さんは長く就いていたのだけれど、徐々にその役割を本来の総務の仕事に戻しつつあった。内気だった彼女がここ最近明るくて気が強くなったと評判だ。