コンコン………。


自室のドアが控えめにノックされる。


なにも答えずに黙っていると、扉はガチャッと開き、お兄ちゃんが入ってきた。



「寝てるかと思ったよ。起きてんなら返事しろよな。」



そう言って、お兄ちゃんはベッドにドカッと胡座をかいて座る。



「何しに来たの。」



机で頬杖をついていたあたしは、これまでのお兄ちゃんの一連の動作を我ながら酷く冷たい横目で見ていたはず。



「昇馬から連絡があった。」



「そうなんだ。」



お兄ちゃんと昇馬、泰知は男兄妹みたいに仲が良かった。


泰知や昇馬が陸上を始めた要因の一つに、お兄ちゃんがいた、ってのもあるらしいし。


普段からLINEで三人のグループを作って連絡は取り合っているらしいけど、昇馬が今日のことをお兄ちゃんに話したことは、お兄ちゃんが部屋に入ってきた時の状況から見てわかっていた。




「やっぱ、迷ってんだ。」



「迷ってるよ。やめようって思っても、もう一人の自分がどこからか出てきて、辞めるなんて卑怯だって言ってくる。」




「いいたとえをするなぁ。」




「うるさいって。何が言いたいのよ、もう。」



ごめんごめん、とお兄ちゃんは手を合わせて笑う。


いつの間にか、あたしは体をお兄ちゃんの方へ向けていた。