「……ん」


カーテンの隙間から零れる日差しに、誘われるように重いまぶたを開ける。


体を起こし、ぼやける視界を擦って辺りを見回せば、薄暗い中に見慣れない部屋。


見慣れないベッド。


大好きな匂いが鼻を掠めて胸がキュウッと音を鳴らす。


この匂いをかぐと、自然と胸が熱くなる。


淡く儚い想いを思い出す。


切なくて悲しい気持ちを思い出す。


だけど、安心する。


ずっとずっと、この匂いに包まれていたくなる。




「……ここどこだっけ?」



額を押さえ、昨日の記憶を呼び起こす。



昨日は確か、色んな事があった。


そう。昨日は教育実習最終日。


生徒達に最後の授業を行った後、最後の挨拶をして。


その後、森田先生と英語科準備室に戻ってケーキとコーヒーをご馳走になった。


いや、正確には食べてない。


慌てて準備室を出たんだ。


何でだっけ?


どこに向かったんだっけ?


誰に会うため走ったんだっけ?



はらりと胸から掛け布団が落ちる。


「……?」


スースーする胸元に視線を落とすと、途端に昨日の出来事が蘇ってきた。