ある日の休日デート。
ウィンドウショッピングの真っ最中に彼が「なぁ」とあたしを呼ぶ。

「んー?」

ピアスを置いて彼の元へ手を戻す。
あたしの手のポジションはいつも腕。

「なんで腕に手を置くんだ?」
「はい?」

最高に今更な質問。

「ちょーー今更だね」
「確かにそうだけど」

彼は言う。

「あんまり手を繋がないよな」
「繋いでるよ」
「そうか?」
「なに、気にしてるの?」

気にしてるとかそういうわけじゃ…と彼は言うけど、一応あたしには自覚があるというかわざと手を繋いでいない。
嫌なわけじゃなくて、手を繋いで歩くより腕を組んで歩く方が好きな事に気付いた。
ただそれだけ。

彼がこんな事を言うなんて意外すぎるけど、きっと今日は休日でカップルが多いからかもしれない。
彼の腕に置いた手と反対側の手でまた腕を掴んだ。
そして腕に体をぴたりとくっつけた。

「手を繋ぐのもいいけど腕組んで歩くのも素敵じゃない?」
「まぁな」
「手を繋ぐ方がいいの?」

彼が手を繋ぎたがる事は知ってる。
そして見た目によらず独占欲の強さも仲間内では有名。

手を繋がず腕に手を添えるだけでは離れていったりしないのに彼はきっと気にしてる。
あたしが離れていかないかどうかをいつも考えてる。
不安になることなんて何もないのに。

彼の腕にぴたりと頬を付け、密着して歩く。

「重い」
「歩きづらいだけでしょ」
「腕組むと俺の手が手持ち無沙汰になる」
「ポケットに手入れてれば?」
「それは無理だ」

しがみつくように腕を組んでた手を剥がされて結局いつも通り恋人繋ぎ。
フィットする感じは最高だけど、もうちょっと腕を組んでいたかった。

恋人繋ぎって手のひらが重なって感覚神経がマヒして繋がってる感じはするけど繋がっちゃったらそれでおしまいでそれ以上はない。
でも腕を組んでいたらあたしはどこに触れても彼を感じられるし、繋がる感覚がなくても一番近くにいるのはあたしだって思える。
それにこうしてその後に手を繋げば手を組んでた時よりもっと近くに感じて嬉しい。

彼が限界超えて手を繋いだ時に感じるこの感覚は最初に腕を組んで歩いていないと感じられない。
…誰も理解してくれないから口外したことはないけれど。

「こっちのが落ち着く」
「別に迷子になったりしないのに」
「そういう問題じゃない」

からかうと不機嫌になっちゃうから心の中で可愛いなぁと思うだけにする。

あたしだって最初から繋いでたい。
でもこの感覚を知って、あたしと手を繋いで落ち着くと思ってくれてることを知ってしまったらやめられない。

触れ合えるって幸せだなぁと思いながら彼の腕にぴたりとくっついた。


END.