廊下の10メートル向こう先。

「あ、なーくんだ!」
「なーくんだねぇ」

あたしが愛して止まない彼が誰かと楽しそうに話している。
しかも腕には手が回っていてかなりの至近距離。

「誰と話してる?」
「杏ちゃんだねぇ」
「杏か…」
「幼なじみって言ってたよ」
「そうなの?!」

あたしはそんな他愛ない話すらも出来てないのか…と心の中で凹む。

「あ、ツインズー!」
「ツインズって…海ちゃん洋ちゃん、おはよ」

今日も可愛い笑顔であたしを魅了してるじゃないの!!と一人萌える。

「なーくん、お願いだから千秋を説得して!!」
「無理だよ」
「即答しないで!!」
「なんの話をしてるの?」

杏がなーくんの服をぐんぐん引っ張り必死すぎる説得に思わず聞いてしまう。

「杏が愛して止まない彼が一緒に出掛けてくれないんだって」
「デート?」
「うん、今は音楽の事で頭いっぱいみたいでさ」

話すなーくんも気の毒そうで隣の杏は盛大に溜息を吐いてる。
あたしが言うのもなんだけど、なんとも言えない哀れ感。

「そーだ海ちゃん。今度の委員会っていつだっけ?」
「え?!」
「え?って…忘れてたの?」
「わ、忘れてない!!」

・・・びっくりした。
あまり話したことないなーくんがあたしと同じ委員であったことを覚えてくれていたなんて。

「じゃあなんで驚いたの?」
なーくんがしがみつく杏の背中をあやすように叩きながらキュートスマイルであたしを見る。
ヤバイ、心臓飛び出す!!と思いながら「だって、クラス違うし…」と赤いであろう顔を隠す為に俯きながら話す。

「委員会同じだもん、覚えるよ」

当然のように言い切る。
・・・また心臓バクバクする。

「しかもいつも洋と間違えられる」
「そうなんだ!男女のツインズなんて間違えようがないのにねぇ」

あははと笑うなーくん…やっぱり可愛い。
惚れたモン負けというか、思わず洋の服を掴んで尻込みしてしまう。
でもそれに気付いてる洋は背中を押して前に出そうとする。

それよりなーくんが覚えてくれていたことが嬉し過ぎて感動した。
今度の委員会は話しかけて隣の席をゲットして交流を深めよう!と心に決めた。

「ねぇ、もういい?」
「慰めてよ!!」
「もう何万回も慰めてるよ」
「足りないぃぃぃ!!」

再びなーくんの服を伸びるほど掴み、なーくんに慰めを求める杏を呆れた顔で見て、そしてあたしを見た。

「じゃあ海ちゃん、また委員会でね」
「あ、うん…」
「洋ちゃんまた後ほどー」

そう言ってクラスに入るなーくんの横顔をずっと見てた。

「よく喋ったね」
「うん、びっくりした…」

あたし達も歩き出し、バクバクする左胸を押さえる。

「目指せ、なーくんゲット!!」
「大きい声て言わないで!!」

思わず洋の口を押さえる。
本当、天然も紙一重すぎる。

離して、と言われて手を話すと「僕もあんちゃんと話したいんだけどなー」といつもの柔らかい笑顔でさらりと言ってのけた。

「?!」
「次の移動でなーくんと作戦たてるんだ」
「そうなんだ…」

今期待のロールキャベツ男子なのか、いつもふわふわしてるくせにこんな所で男を出して来るなんて血の繋がった兄妹ながら驚いた。

洋もちゃんと自分の為に動いてる。
あたしも青春謳歌の為に頑張ろう!と気合を入れた。


END.