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ウォル殿下は『城に連れて帰る』と言っていたけれど、もちろんそう簡単には許可が下りるわけもない。

そんなたかをくくっていたわけだけど、連れ帰られたのは、城壁のなかにある離宮だった。

『私は普段、ここに住んでいますから、自分の家だと思ってくださって結構です』

そう言った彼に『いや。無理だろ』と、心のツッコミを入れたのは私だけじゃないと思うんだ。

まぁ。それでも、誰かになにかを指図されたり、逐一監視されてる気がしないのは、広さゆえか、あまり人とすれ違わないからだろう。


「……通常の入婚は、あまり教育が行き届いていない娘がするものなの。ノーラは侯爵夫人の教育がしっかりしているみたいですし、問題ないと思うのだけれど」

王城の中に属することに変わりない離宮は、気楽に王族の方々が遊びに来てくれる。

今日も王妃殿下が『美味しいチーズケーキが焼けたの』と、来てくださった。

……てか、入婚もなにも、ウォル殿下とは婚約すらしてないんですが。

もちろん、私と殿下の寝室は別々だ。

私とウォル殿下の寝室の間には、居間のような私室があり、廊下を通らないでも行けるようになっていて、夫婦が使うんじゃないか?的な間取りをしてるけど……。

うん。違うんだ。まだ、違う。

自問自答していると、王妃殿下はティーカップをおろし、慈愛のこもった微笑みを浮かべてくれる。