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内宮は実は初めて。長い長い大理石の廊下を歩き続けていたら、若干方向感覚が狂っていく。

何人かの近衛兵たちとすれ違い、不思議そうに見送られながら歩き続け……。

「ノーラ。それ以上進むと、後宮に入り込んでしまいますよ? 私の部屋に招待してもいいですが、さすがにあなたの父君が黙っていないでしょう」

諭すように言われて立ち止まる。

「どこか、落ち着いてお話できるような場所はありますか?」

「夜会の休憩室として、いくつか部屋を開けています。恐らくまだ始まったばかりですから、誰もいないと思いますよ」

「案内してくださいますか」

睨むようにして振り返ると、困ったような……でも、どこか楽しそうなウォル殿下の表情を見上げる。

「仰せのままに。何か飲み物も運ばせましょう」

そして、彼に案内されたのは、いくつものソファーが並べられた、書斎のような部屋だった。

暖炉にはすでに火が入り、中央のローテーブルには、サンドイッチのような軽食が乗った皿と、ふたつのワイングラス、それから赤いワインの入っているらしいデキャンタが用意されていた。

……えーと。

「魔法でも使いましたの?」

思わず呟くと、ウォル殿下は自嘲ぎみな苦笑を返してくる。

「まさか。ただ、声に出して希望を述べましたからね。聞いていたものが先回りして用意したのでしょう」