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セレスティア王国の冬は、他国に比べて厳しいと言われている。

切り立ったような山岳に囲まれたお盆のような土地は、夏は暑く、冬は寒いのが当たり前。

でも、この土地に生まれてしまえば、身体は勝手に寒さに慣れる。

「冬は好きな季節です。厳しい冬を経験するからこそ、春がとても尊いように思えますから」

馬の歩みに身体を揺らしながら、ポツリと呟くと、手綱を握っていた男性が厳しい顔で振り返った。

「それは今、言わなくてはならないようなことでしょうか。無駄口は結構ですので、まずは生き延びることを考えなさい」

目の前の彼は雪にまみれている。

いつもは見事で艶やかな金色の髪も、びしょ濡れどころか凍りつき、黒かったはずの外套は雪が積もって灰色に見えた。

それは私も似たようなものだろう。

膝まであるロングブーツのお陰で、雪が直接入ってくることはないけど、寒さと冷たさに足の感覚はすでになく、視界を遮るような吹雪に方向感覚も失いつつある。

こんな夜は屋敷にこもり、暖かいワインを飲んで早めに寝てしまうのが定番だ。

なのに何故、私たちが吹雪の中をふたりで馬に乗っているのかと言うと……。

「何も、こんな夜に家出などしなくてもよいのに」

忌々しそうに言う彼に、クスリと小さく笑ってしまった。

そう。何気なく将来の結婚話をちらつかされて、こんな夜に家出を実行してしまった王女殿下のためだ。