それは一瞬の出来事だった。


秋の空はとても高く、どこまでも突き抜けている。


うろこ雲が海を泳いでいるように遠くまで続いている。


そんな青と白のコントラストの中に、赤が混ざった。


地面から吹き上げられた赤は空の色に混ざる事なく、落下していく。


その赤は異物だった。


この空の色にあってはならない色だった。


たとえば今が夕方で、赤い夕陽が登っていたのだとすれば、それもアリだったかもしれない。


だけど、真昼間に見る赤は決定的に浮いていた。


ドサリ。


そんな音が聞こえて来て俺は視線を空から地面へと移動させた。


俺の足元に、さっきまで一緒に歩いていた乃愛が地面に横になってこちらを見上げていた。


その体からは血が流れ、灰色のコンクリートの上に広がって行く。


乃愛の顔はこちらへ向いているのに、乃愛の体はコンクリートの方を前にして倒れている。


180度ほど顔が回転していることになる。