「……アリシア様、貴女は伯爵令嬢であり第一王子の婚約者なのですよ」


「……?ええ、そうね」


「汗をかき泥だらけになるような仕事をして良いはずがないでしょう」


「あ……ダメ、かしら?」


「ダメです。貴女に庭師の真似事をさせているなどという話がイルヴィス王子の耳に入ったりしたら咎められるのは僕ですし。
……それに、そんな上等な服汚したらどうするんです」



 言われてみればその通りだ。

 アリシアの着ている服は、リアンノーズ家ご用達の仕立て屋で注文した、なかなか質の良いものである。黒みがかった赤の落ち着いたワンピースは、独特な髪色のアリシアにも似合う貴重な赤い服だ。



「確かにこの服を汚すわけにはいかないし、ミハイルさんに迷惑をかけるわけにもいかないわね……」


「お分かり頂けたのならよかった」



 ミハイルは心底ほっとした顔をする。だがそれも、続く言葉を聞くまでの短い間だった。



「つまり、汚れても良い作業着を着て、その上でわたしと分からないように変装すれば解決ね!」


「……は?」



 名案だとばかりに目を輝かせるアリシアに、ミハイルはあんぐりと口を開けるしかなかった。