大昔から言われることには、恋は甘酸っぱいものらしい。そしてどうやら甘美なものらしく、年頃の娘達はこぞって黄色い声をあげながら話を楽しんでいる。

それはクラリスにとって信じがたく嘘くさいものだった。

そう言えば、とクラリスが思い出したのはある人の言葉。

オルレアン伯爵家に勤めていた頃、先輩の侍女が幸せそうな表情をしてクラリスに微笑んでくれた。


「クラリス、貴女も恋をするといいわ。そうすればきっと幸せになれる」


彼女はそのまま結婚して伯爵家から去って行った。素敵な人と恋に落ちて、そして更なる幸せを手に入れたそうだ。


恋も知らなかった幼いクラリスは、そんなものなのかと薄ぼんやり信じてもいた。

けれど今は違うと断言できる。恋をしても幸せになれるとは限らない。

だって、どうやって信じろと言うのだ。


こんなにも胸が苦しくて、辛くてしかたがないのに。





「ローズヒップは恋に似ていると思わない?」


ランティスから離れると宣言した日から数日後、午後の茶を持ってきたクラリスに王太后はにっこり微笑んだ。


用意した茶はローズヒップとジルダをブレンドしたもの。以前ブランが「大人の味」と言っていたものだ。それに蜂蜜を溶かしたものを王太后は所望された。

この国が危機に瀕している今、さぞ王族の方々は心労が祟っているのではとクラリスは懸念していたが、王太后はお茶目な笑顔を見せるくらいには元気そうに見えた。

王太后は前王の時代からきっとこの国に訪れた危機を乗り越えて来られたのだろう。だからこそこの事態にも動じずにいられるのだろうか。それとも元気に振る舞っているだけで本当はもう空元気なのか、クラリスには判断できなかった。