6月に入って、天候も雨が続く。
美陽は授業中、雨が降る外を見つめた。
グラウンドには大きさが異なる水たまりが出来ていた。
土は砂でなくなり泥になる。
上の空の美陽に教科の先生が声をかけた。

「次沢、どうかしたか?」

先生の声で美陽は我に返った。
その様子を束李は心配そうに見ていた。

「何でもないです、すみません…」

美陽は先生に謝り、教科書に目をやる。
先生は教科書を読みながら、美陽達生徒の横を通り過ぎた。
授業が終わるとすぐさま、束李が美陽の席に駆け寄った。

「大丈夫?美陽。最近上の空で、心ここにあらずって感じだけど…」

束李は本気で美陽を心配していた。
美陽は何でもないと笑って返す。
だが、束李はどこか腑に落ちない表情をしていた。
お昼休み、食堂で美陽を抜いた3人、束李と龍月と悠琉がご飯を食べていた。
美陽は図書室に行くと束李に伝え、1人足早に教室を出て行った。

「…ってことなんですが、どう思います?葵井先輩」

束李は2人に美陽の事を相談していた。
しかし、真剣に聞くのは悠琉ばかり。
束李は敢えて龍月に聞く。

「雨だからじゃないの?ほら、雨の日って気分落ちるし」

龍月は答えつつもご飯を食べ続ける。
束李はちらっと悠琉を見る。
悠琉は真剣に考えているようだった。
考えすぎて箸が進んでいない束李と悠琉に龍月は杞憂だと言う。
束李は諦めてお弁当を箸でつつく。
それでも、悠琉の箸は進んでいなかった。

一方美陽は図書館で好きな本を読みながらもため息をついていた。
美陽を気にして侑士が話しかける。

「どうかしましたか、次沢さん」

美陽はしおりを挟んで本を閉じた。

「雨のせいで…。最近雨ばかりで気が滅入ると言いますか、なんか…何もやる気が起きなくて」

美陽はまたため息をつく。
どうやら束李と悠琉の心配は龍月が言う通り、杞憂だったのかもしれない。
侑士は少し笑って美陽に言う。

「雨もそこまで悪くないと思います。確かに最近は雨ばかりですが、私は雨が降る音が好きでして、聞いていると心が落ち着くような感じがするんです」

後、匂いが好きとも侑士は言った。
美陽は窓の外を見る。

「私もどちらかと言えば雨が好きです。ですけど…」

美陽は言葉が詰まって口を閉じた。
侑士は静かに美陽から離れる。
窓の外を見る美陽からため息が消えることはなかった。