お義兄さんに送ってもらい修一郎さんとマンションに戻った。

修一郎さんは仕事の時間が迫っていて慌ただしくシャワーを浴びて身支度を整えて出て行った。

私はマンションに戻ってそのまま自分の部屋に入って出ていかなかった。

ドアの向こうで修一郎さんが「行ってくるよ」と私に声をかけてくれたのに、それに対する返事もできなかった。

私は修一郎さんを避けた。
愛理さんのマンションからの帰りの車内でも修一郎さんが私に話しかけてくれたけれど、私は空返事しかすることができなかった。

夕方になりスマホに修一郎さんから着信があったけれど、出ようかどうしようかと考えているうちに電話は切れてしまいすぐにメールが届いた。

取引先の都合で帰りがかなり遅くなるという内容で、私のことを気遣う文面だった。

遅くなるのは昨日の女性と会うからだろうかと余分な考えが心に浮かぶ。
例えそうだとしても、それをとがめる資格は私にはない。
彼女にも言われたじゃないか「形だけの婚約者」だと。

私のことは心配いりません。お仕事頑張ってください

そう返信した。
私のことは家政婦だと思ってもらった方がいい。私もそう思っていればいいのだ。



結局修一郎さんが帰ってきたのは翌日の日曜の夜だった。
昨夜は会社に泊まると修一郎さんとお義兄さんの両方から連絡があった。

お義兄さんが泊まり込みになるけれど、女性のところに行っているわけじゃないよ言ってくれたのは私に対する気遣いだ。例え、女性のところに行っていたとしても私は咎める立場にはない。



「修一郎さん、お疲れさまでした。お夕飯は?」

物音に気が付いて自分の部屋からリビングに出てきて声をかけると修一郎さんは驚いたようだった。

「ただいま。夕飯あるの?」

「もちろんありますよ。私は最初に同居させてもらってる間は料理を作らせてほしいと言ったじゃありませんか」

私の固い話し方に修一郎さんは眉をひそめた。

「ノエル、少し話がしたいんだけど。ここに座って」

リビングの私の定位置になっている3人掛けソファーを指さした。

「はい」

返事をして自分の立っていた場所から一番近くの1人掛けソファーに座った。

私の反抗的な態度に修一郎さんはさらに表情を固くした。