愛理さんの自宅マンションの来客用寝室に入り、1人になると涙がこぼれた。

私が本物の婚約者でないことを修一郎さんが他人に話したこともショックだったけれど、今夜の集まりに私を連れて行きたくなかった原因は私のことを知られたくないと思う女性がいたからだったらしい。

酔って私の存在を忘れて部屋に連れて帰ってきてしまうほどのお相手が修一郎さんにはいたということだ。

やっぱり、もうこの関係を続けていくわけにはいかない。

目を閉じるとさっきの女性の姿が浮かぶ。

スラッとしたモデルのようなスタイル。
ダークブラウンの長い髪は綺麗に丁寧に巻かれていた。
メイクは濃いめだったけれど、美人だった。仮にメイクを落とした状態でも私より数段上の美人。
私と違って修一郎さんの隣に並んでも見劣りがしない。

嫌な気持ちを振り払うように頭をふるふると振ってみるけれど、そんなことで今夜のことが忘れられるわけではない。
却って私の頭の中にべったりと貼りつくように重たい気持ちになった。
まるで、修一郎さんの口元にべったりと付いた彼女のルージュのように。



うとうととしていたら夜が明けた。
ベッドサイドの時計を見ると6時。
寝室をそっと抜け出すとキッチンにはもう愛理さんの姿があった。

「愛理さん、おはようございます」

「ノエルちゃん、おはよう。もう少し寝ていてよかったのに・・・って腹が立って眠れないか」

愛理さんは優しく笑いかけてくれた。
私も微笑み返した。

私の前にホットミルクが置かれる。

「あまり眠れなかったんでしょう。ミルク飲んでね。ストレスのかかった胃にコーヒーじゃ刺激が強すぎるから」

「ありがとうございます」

愛理さんの細やかな心遣いに感謝する。