紅音が出て行くと言った春


ちょっとした事件は、あったものの


皆と花見を楽しんでいる


桜の下で、目を閉じ


深呼吸を繰り返す紅音



「寒くないか?」


「寒くない」




頬を撫でれば、その頬の冷たさに
やせ我慢して… と思うが



澄ました顔からは、寒さなど見えない




「なんだ?」


「今日も綺麗だ」


「桜を見ろ!もっと綺麗だぞ!」


「あぁ桜も綺麗だな」



もう一度、頬を撫でる


紅音は、少し視線を落とした



「出て行かなきゃ、行けない」


「行くとこあんのか?
文をよこせるのか?俺が迎えに行くまで
そこで待てんのか?」


顔を上げ、俺の目を見ると


「私は、長生きする人がいい
私よりも長く生きることが出来ない人を
夫には、出来ない
どうして土方が、私をそんなに思ってくれるのか、私にはわからない
ただ、土方の妻になることは、ない」


いつになく真剣な目をしていた



「私が治せるのは、怪我だけだ
病は、治せない
寿命も延ばせない
………土方は、あとどれぐらい生きれる?」


「んなの、わかんねぇよ」


「私は…… 私は、180年生きている」


「ひゃく!?」


「普通の人の18歳だ
10年に1度しか、歳をとらない
30で、死ぬとしても後、120年!
土方は、私より長く生きることは
無理だろう?」


「無理だろうな
無理だが…生まれ変わることもあるだろう
何回も出会えばいいんじゃないか?」


「何回も別れをしろと?」


「別れを悲しむな」 


「悲しくない別れがあるのか?
なるべく人と関わらずにいても
知った人が、先に逝くと悲しくなる
それが…家族なら尚更、悲しくて当然だ」


「死なない約束なんて出来ない
だが、生きてる間、紅音を幸せにする」


「そして……置いて逝くのか?
土方も……蒼も……先に逝く
残る私は、どうすればいい!?
そんな、一時の幸せなどいらぬ
喜びがなければ、悲しみだってない
最初から、ひとりでいれば
こんなに胸が痛むこともないんだ!」


紅音は、180年ずっとひとりでいたのか?

いや、そんなはずはない
家族がいて、友がいて
きっと、恋だってした


その別れの悲しみが、癒えてないんだ


俺は、紅音に何をしてやれる?