「バスケ部のマネージャーになろうと思うんです。」

「それは助かるね。
 で、なんで先生に言うのかな?
 それにここで言う必要ある?」

 校舎の裏。
 人目につかないところから聞こえる会話。

 聞くつもりじゃなかったのに聞こえてしまって聞き耳を立てずにはいられない。

 千尋は物陰に隠れてじっと聞き入った。

「マネージャーになれば大悟先生の近くにいられると思ったから!
 大悟先生のこと好きなんです!!」

「悪いけどガキには興味ないんだ。」

 いつもの軽い口調。
 それが余計に辛辣に聞こえる。

「え?」

 耳を疑う内容に告白した子も驚いている。

「聞こえなかった?
 私だけは他の子と違うとでも思ったのかな?
 俺、カギに興味ないから。」

 うわー。ひどっ。

 泣き声だけが遠のいていくのが聞こえる。
 言い返すことも出来ずに告白した子は逃げて行ったみたいだった。

 どうしよう。
 出て行きにくい。

「そこにいるのは千尋ちゃんかな?
 のんちゃん探してるんでしょ。」

 バレてた。
 だったら開き直って言いたいこと言ってやろう。

「大悟先生ってひどいね。」

「ん?盗み聞きのがひどいと思うけど?」

 う……。確かにそうだけど。

「……大悟先生はどうして先生になったの?
 そういう感じじゃないでしょ?」

「そういう感じじゃないって向いてないってこと?」

「………。」

 はいと言いたいけど、さすがに言えなかった。

「のんちゃんと同じこと言うよね。」

「え?」

 大悟先生は不敵に笑った。

「先生になりたかったのは俺が人生を投げてた時に生き方を教えてくれたのが先生だったから。」

「何それ。
 その割にはやっつけ仕事だよ。
 大悟先生は。」

「あぁ。そうだね。
 子どもが嫌いだって気づくのが遅かった。
 高校ならマシかと思ったんだけどさ。
 ガキ臭えしよ。しくったよなー。
 大学の教授とかのがいいんだけどな。」

「最低。」

「そぉ?ありがと。」

 にこやかな笑顔で返されて拍子抜けする。

「そうそう。のんちゃんなら体育館でバスケやってると思うよ。
 ボール触りたくて、ここに来るのOKしたようなもんだから。」