「ミヤマさんはさ、俺より、ソノダが好きなんだよ。」




ミヤマと、ソノダ。

このせまい島国の中で、量産されている苗字のひとつにすぎないと、思えるくらいに他人事でいたかった。

その文字の並びに動じないくらい、無関係でありたかった。



「……叫んでも可愛い女子になったら、良かったのかな」


「……かもな」


「ソノダくん、清楚な子が好きって言ってたからさ、」


「うん」


「わたし、髪巻くのやめてストレートにして、柔軟剤もジャスミンの香りに変えたんだけどさ、」


「うん」


「……ソノダくんが、好きになったのは、ミヤマさんだった…っ」



じわりと滲んで、輪郭を伝う間に、悲しみも後悔も吸い込んでくれたらいいのに。


ソノダくんなんて、ちょっと友達と揉めて、ちょっと人間不信になってる時に、ちょっと支えてくれたような人、あっさり一雫の塩分に溶かされてしまえばいいのに。



「…辞められたら、いいのにな。て、言ってもどうせ、無理なんだろうなあ。」


「…そう、だね」


「たぶん、過去に戻ってやり直せたって、俺はミヤマさんに惚れるし、お前はソノダに夢中になるんだ」


「……うん。そうだね。むかつくなあ、ほんと」