「スタジオ入りは11時だったよな?」

今日も朝から大忙し。
始業は9時だけど、今日は佐野主任の企画のポスター撮影日。
私は8時に出勤して、もうすぐ篠宮部長と一緒に撮影が行われるスタジオに向かう予定。
佐野主任はスタジオに直行してる。

秋用のパーティードレスの撮影で、モデルさんは11時にスタジオ入り。
メイクとか着替えとか準備が出来次第、撮影スタート。
順調にいけば、15時くらいには終了かな。
頭の中で今日の段取りを組み立てる。

すると突然私のデスクの電話が鳴った。
「企画広報部、栗原です」
電話の相手は総合受付の電話オペレーターで、モデル事務所のマネージャーからの連絡で、件のモデルが急性虫垂炎で病院に運ばれたらしい。
「えええー!!」
思わず叫んだ。
叫ばずにはいられないよ!
だって今日の今日だよ?
なんてタイミング!

電話を切ると、篠宮部長に事情を話した。
篠宮部長は冷静に部下たちに指示を出す。

そこへ私の叔父、姫野社長が企画広報部にやって来た。
「事情は聞いた。篠宮くんと栗原さんはスタジオに行って。あとは私がなんとかするから」
社長は余裕の表情で、スマホでどこかに電話をかけている。
「栗原、行くぞ」
篠宮部長は荷物を持って、車のキーを手に取り、エレベーターに向かって歩いて行く。
私は急いでスマホをバッグに詰め込んで、篠宮部長を追いかけた。
「いってらっしゃ~い」
メグちゃんは手をヒラヒラ振って、見送ってくれている。

エレベーターで本社の地下駐車場に行き、篠宮部長の高級車に乗り込む。
何度か篠宮部長の車に乗せてもらったことがあるけど、最初乗った時は緊張したなぁ。
社長の車も高級車だけど、身内だから緊張することなんてないし。

「社長、どうするつもりなんですかね?」
私は不安でいっぱいだ。
モデルがいないと撮影は出来ない。
でも今日撮影しないと、スケジュール的にマズイことになるのは間違いない。
「なんとかなるだろ」
そんな私の不安をよそに、篠宮部長はいたって冷静に答える。
「なんとかって…他のモデルさんは今日別の撮影で出払ってるって言ってましたし。今さら別のモデル事務所ってワケにもいかないでしょうし」
私が独り言のようにぶつぶつ呟いていると、篠宮部長は私の頭をポンポンと触って、フッと笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ」
篠宮部長が大丈夫と言うなら、本当に大丈夫なんだろうけども。

あの、頭ポンポンにイケメンの笑顔って、なんの嫌がらせ?
地味子をからかってる?
あぁ。篠宮部長のことだから、きっと無自覚なんだ。

やっぱり私の苦手な上司、それが篠宮和真。