社長室を出ると、部長は私を会議室に押し込んだ。

「いい加減、覚悟決めろよ」
部長は腕を組んで、私を見下ろす。

「部長はいいんですか?こんな話引き受けて。もし彼女さんとかいらっしゃったら、申し訳ないですし…」
私は俯く。
部長は独身だけど、つき合ってる人がいるかもしれない。
鬼部長だけど、イケメン部長でもあるから。

部長は大きなため息をついた。
「アホか。いたら、こんな話引き受けるわけないだろうが」

部長の鋭い目が怖い。
「すみません」
即座に謝った。

「栗原はいないのか?」
部長は私の顔を覗き込む。

「私にそんな人いるわけないじゃないですか!生まれてこのかた、誰ともつき合ったことないですから!」
勢いあまって、余計なことを言ってしまったと気づいた時にはすでに遅し。

「いないのか」
部長はニヤリと笑って、私に近づいてくる。
私の肩をぽんっと軽く叩いて横を通り過ぎ、会議室のドアに手をかけた。

「今から俺の婚約者だからな。朝海」

名前を呼ばれて、私の体はまたしても、かっと熱くなった。
部長が出ていった会議室のドアをしばらく見つめ続けていた。