「この街……県に来たのは条件に見合った場所だったからです」

【条件その一】海がないこと。
  ネットで調べたら八県あった。
【条件その二】淡水魚の美味しいところ。
  海が淡水魚を苦手としていたから。
【条件その三】思い出がない場所。
  これは外せない条件だった。

条件の内容を聞き、湖陽さんが訊ねる。

「海が嫌いなの? 嫌な思い出でもあるの?」
「いいえ、海は好き。大好きです。人生で一番キラキラした思い出ばかりです」

そう……海との思い出は、私の青春そのものだった。
だから、辛過ぎる。彼を思い出す……海がある場所は……。





海原海。最初この名を聞いた時、冗談かと思った。

海と舜と出会ったのは高校三年の夏期講習で、だった。
自習室でたまたま席が隣になり、たまたま言葉を交わしたのが最初だ。

それがあったから、私は『たまたま』というのは必然的なもので、必然は運命なんだと思うようになった。

それほど彼らとの出会いは私の人生を大きく変えた。