「雪は天からの手紙だって知ってた?」


アサコさんはよくこう言う類の事を話す。僕はその度に、わくわくする気持ちと同時にどうしてもアサコさんに追いつけない気がするのとで胸がざわつく。


「詩人ですね、アサコさんは。」今の僕が返せる精一杯。天から手紙がやって来てしかもそれは雪だなんて。生憎僕はそんなロマンチストな発想を生み出したりーーー


「私じゃないわよ。それに詩人じゃなくて物理学者の言葉。」


ほらね、僕の知らない事をアサコさんはさらっと話す。今、僕は一つ賢くなって一つ卑屈になるんだ。なんだか自分ばかりが置いてけぼりくらったみたいに。


だからきっと実質的な3年と言う年齢の差以上に僕とアサコさんの距離は縮まらない。いくつになっても僕はアサコさんにとって大学の後輩でしかないんだ。


アサコさんが職場で主任と呼ばれるようになって半年が過ぎようとしている今、僕は漸く就職先が決まったところだ。


言い訳がましいけれど採用試験に落ちまくった訳じゃない。多少、落ちたけれど。そこは良いとして僕は僕が本当に働きたいと思える企業に勤めたかったんだ。


だからどこでも良かった訳じゃない。考えて考えてここならって。だから決めた。子供の頃から馴染みある地元企業に。