キレて、屋上を去った後だ。
絶対に、偽名バレた…。あっちからすれば少し理不尽だよなぁ。理由がわからないまま怒鳴られて…。

私は病気だ。

余命宣告もある。と言うか、親がいないから高額な治療費や手術費を払えない。

私は捨てられた。

と言うか、育児放棄だ。

私の口座に謎のお金があった。毎月毎月仕送りされていて、生活はできた。

でも、病気は治せない。

家賃別で月30万貰っていてもその金額じゃ足りないし、そもそも手術をやってくれる医者がいない。

親は金持ちなのだろう。家は高級マンションの最上階だし、月々のお金も多いし。

まぁ、どう転んでも死ぬ。

偽名を使っている理由は昔、レイプされた暴走族に見つからないため。

私は心臓の病気で、中2の段階で余命が残り3年くらいしかなく、死ぬ。らしい。

死ぬなら、医者の話なんて聞いても意味ないしね。

あっ!暴走族が嫌いな原因はレイプね。まぁ、根本的に男が無理。


あいつらに絶対に目、つけられたよなぁ。

私のことを知ってもらうために、少し昔話をしよう!


私が捨てられたのが、7歳くらい。小学校には行っていなかった。

11歳くらいの時に、買い物帰りに〝赤燐”(せきりん)っていう暴走族3人にレイプされた。

その日から恐怖の日々が始まった。

怖くて家から出られず、怯えていた。

でも、12歳の時自分で何とかしないといけないんだって気づいて、家から勇気を出して出てみた。

強くなりたい。いつしかそう思うようになり、女だとバレないように変装して毎日喧嘩に明け暮れた。

族を1人で潰せるほどだ。ハッキングだって独学で覚えて族潰しに役立ててる。

だが、ある日の夜。

呼吸がしづらくなった。初めは、放置していたけどとうとう我慢できなくなり、病院に行った。

その時だ。余命宣告を受けたのは…。

これが、今までの私の話。


だから、暴走族は嫌いだし、身元も明かす気はない。

同情、哀れむ目

私に向けられる目にいいモノなんてない。

裏切られるのがオチだ。

学校側には、病気のことは言っていない。同情の目を向けられるのはごめんだ。


ゴチャゴチャと考えていたら、あっという間に昼休みになっていた。

最悪だ。ほとんどの授業をサボってしまった。

「怜奈ちゃーん!」

呼ばれたから振り返った。そこにいたのは桐本美希だった。

「なに?もう用済みだろ?」

「一緒に来て!もう、学校サボっちゃおう!」

「はぁ?なに言ってんだ。」

「だ・か・ら!今から、倉庫に来て!」

「嫌よ!絶対にイヤ!!」

「お願い!ね?」

ぐぬぬっ。なんつー可愛いおねだりなんだ!

「うっ、わ、わかった…。行く。」

「やったぁ!」

はぁ、可愛い笑顔だこと…。このキュートな笑顔に負けたなんて…!

「あっ、怜奈ちゃん!教室に入ってないよね?」

「ん?入ってないけど…。どうして?」

「えぇー!だって、怜奈ちゃんは優等生でしょ?だから、仮病でも使わないと怪しまれちゃうじゃん!」

こ、この子…。意外と頭が良いなぁ。

「あっそ。」

「よしっ!じゃあ、レッツゴー!!」

そう言って、私の腕を掴んで走り出した。走らないでほしい…。息が…苦しい。胸が痛い。呼吸ができない。

「はぁ、はぁ、はぁ…。」

「もう!体力無いなぁー!」

体力はあんたよりあるよ!最近症状がさらに悪くなって、あまり、走れない。

「ねぇ…。はぁ、はぁ、止まって…。はぁ、はぁ。」

「むぅー!しょうがないなぁー。」

そう言うとようやく止まってくれた。

よかった…。

「はぁ、はぁ、歩こう?」

「仕方がないなぁ。本当に体力無いなぁ…!」

体力の問題じゃない!つうか、中学の時は、陸上部だったっつうーの!

私は、中学は行ったんだ。勉強をするために。もちろん、桜木怜奈として。

部活に絶対に入らないといけない学校だったから、仕方なく陸上部に入った。まぁ、この時にはもう、病気だったんだけどまだ、動けたからやった。

「ね…き……てる?」

「ねぇ!聞いてる?!」

考え事をしていたら、桐本美希の顔がドアップで視界に飛び込んできた。

「へ?!な、なに?!」

「ボーっとしてたでしょ?着いたよ?」

「あっ、あぁ。ごめん。」

目の前にはザ・倉庫と言わざるを得ないきれいな大きな3階建てだ。

ガラガラガラッ!

桐本美希が大きな扉を勢いよく開けた。

そこら中から、“ざっす!”とかいろいろ聞こえる。

その中から、“誰だ?”とかも聞こえる。

「みんな、やっほー!」

桐本美希が大きな声で叫んだ。
近くにいた人になにかを聞いた

「みんな上?」

「はい!皆さんいらっしゃいます!」

確認か。いなかったら、来た意味ないしね。

とりあえず、私はペコペコと頭を下げておいた。

「怜奈ちゃんついて来てー」

奥に進むと、2階へと続く鉄の階段があった。

階段の奥にも扉があって、まだまだ奥行きがありそうだ。

コツンッ、コツンッ…

階段をのぼる音が倉庫内に響く。

階段をあがった先にはこれまた大きな扉。

ガチャ

「やっほー!連れてきたよー!」

「今度は何ですか?」

少し、イライラ感を出して聞いた。

「まぁ、そうカッカッしないでー」

可愛いけど、オーラが半端ない。こいつ、総長だ。

「総長様が私に何の御用で?」

「へぇー!すごいね君!俺が総長ってわかったんだぁー!
名乗ってないのに。」

んー!すごい殺気!ふふふ。

「その殺気、しまってくださる?ワクワクしちゃう!ふふふ。」

この発言にみんなの顔が強張った。

「お前!何者だ!」

このチャラ男!うっせーよ!

「チッ!うっせーな!女嫌いのチャラ男が!」

この発言でまた、場が凍った。

「ど、どうしてそれを…!」

「気づかないわけねぇーじゃん!屋上で私に向けた言葉と顔は全く違った。言葉では“カワイイ”って言っていても顔は“嫌いだ、近寄るな。”って隠すの上手いじゃん!ふふふ。」

チャラ男の顔は唖然としている。

「フハハ!おい、お前何者だよ!美希、ちょっと下に行ってて。」

「わかった。」

桐本美希を部屋から出した。
真面目そうなやつ。隠しているつもりかな?

「ただの、女子高生だよ?出来損ないの副総長様?ふふふ。」

副総長様は目を見開いて怒りをあらわにした。

「おい!ふざけんじゃねーぞ!黙って聞いてりゃあ、適当な御託並べやがって!」

「ふふふ。御託?どこが?すべて本当のことでしょ?
私の前では、嘘は通じない。」

「君、おもしろいね?」

「それはそれは、ありがとうございます?ふふ。
総長様は表情に出ないように頑張ってますね?逆にバレるよ。ふふふ」

「そうかい。ハハハ!気に入った!これから毎日ここに来い。」

「はぁ?嫌よ?前にも言ったでしょ?暴走族は死ねって…。ふふふ」

こいつ私に探りかけてやがる。

「言ってたねぇ?君のことがわからないから知りたいなぁ。」

「よくもまぁ、口から出まかせを吐けるね?ハッキングしたくせに。副総長様が…ふふふ。」

偽名なのはバレてる。その他はバレることない。大丈夫だ。
総長様は普通の顔ってところ。副総長様は何故?とでも言いたげだ。

「完敗だ。君には負けるよ!フハハハ!ハッキングはしたよ?旬が。でも、君のことは出てこなかった。偽名だよね?」

やっぱりか。

「んー。そうだね!偽名だよ?だからどうしたの?」

「普通の女子高生が偽名を使うか?君は何者だ?」

「訳アリ女子高生?かな。ふふふ。」

「おい!はっきりしろよ!いい加減によ!」

初めて声聞いたぁー。無口だなぁ!しかも俺様だ。

「あら?あなたの声初めて聞いたわぁ!この中で一番過去が残酷そうね!ふふふ」

「テッメェ!その口、一生叩けなくしてやるぞ!」

「あら?脅し?あなたに私が倒せるかしら?」

「なんだと?!」

「まぁ、まぁ!落ち着いてよ。」

総長様が止めに入った。

「聞きたいことがあるんだけど?どうして人によって話し方を変えるの?」

「んー。なんとなく?」

「そっか。とりあえず、今日から夜9時までここにいろ。」

なんと勝手な。

「拒否権はないんでしょ?」

「そうだね。ないね。」

やっぱりか。

「俺は嫌だ。」

真っ先に言ったのは、副総長様だった。

「反対派がいるみたいよ?」

「んー。困ったねぇー。しゅーん!どうして反対?」

優しく、でも本心を聞き出すように強く聞いた。

「正体が不明すぎるんだよ!唯一分かってるのは暴走族が嫌いってことだけ。名前だって本当の名前じゃない。そのくせ、人の本心は見抜く。怖えんだよ!」

「なるほどね。この子のこと知れば怖くないでしょ?」

「チッ…。わ、わかったよ。」

腑に落ちてない顔だぁ!

「ここにいればいいだけ?総長様」

「そう。それだけ。」

「そう。」

この日から、私の人生は狂い始めたのかな?

その後、話のケリがついたころには既に9時を回っていた。

“送る”と言われたが断り家へ帰った。