【 郁也 Side 】
……やってしまった、と思う。
右手で頭をおさえると、走り去って言った林檎の顔が頭に浮かんでくる。
今にも泣きそうな顔を、していた。
でも、だって。
自分を抑えることができなかった。
林檎に触れたいと、キスしたいという欲求を、止めることができなかった。
ていうか、今のは完全に……俺が悪い、よな。
「……んだよ……めんどくせえ……」
クシャッと頭をかく。
泣くとか。泣かれるとか。
まして、キスして泣かれたとか。
今までそんな奴、1人だっていなかった。
いつも俺の外見に騙されて寄ってきて、キスだのなんだのねだっては自分だけの欲求を済ますような女としか関わったことがなかった。
ていうか、拒むだとか俺のことを受け入れないだとか、そんな奴がいたら速攻捨てていただろうし、まず関わりを持つことだってしなかっただろう。
なのに、さ。
あいつには嫌われたくないとか、俺、どうかしてる。
「んだよ……ホントに」