ハッと目を覚ました瞬間、見えたのはいつもどおり自分の部屋の天井だった。

目だけをキョロキョロと動かして辺りを見回してみるけれど、やはりそこは変わらず自分の部屋だ。参考書の積まれた勉強机、淡いブルーが気に入って買ったカーテン、クマのぬいぐるみが飾られた本棚。全部、いつもどおりだ。

ゆっくりと体を起こすと、ぐっしょりと汗をかいていることがわかった。どうしてだろう、やけに頭が重い。それに、さっきまで見ていた夢の中の話をいやに鮮明に覚えている。手のひらを見つめながら指を動かしてみたけれど、異常はない。

「あ……」と試しに声を出してみる。朝起きた直後のわりにはきちんと声が出た。やっぱり、なにもおかしなところはない。

変な夢だった。真っ白な空間に自分だけが存在している夢。影も足音もないけれど、自分の声だけはきちんと聞こえる空間。そこにいたのは確か――クラスメイトの、雨夜だった。

鮮明に雨夜の顔が思い出されてドキリとする。くせ毛の黒髪、長い前髪からのぞく白い空間とは対照的な色をした瞳、長い手足を折り曲げて座り込んでいた姿。

どうして突然雨夜が夢に出てきたのだろう。彼とはただのクラスメイトで、ほとんど会話も交わしたことがないのに。

記憶が途切れたのは、たしか彼が口を開いた瞬間だった。あの時の言葉を、私は聞いたような気もするし、聞いていないような気もする。ただ、はっきりとは思い出せないけれど。

……なんて、たかが夢の中の話。なにをこんなにも気にしているんだろう。記憶が鮮明なのは、きっと浅い眠りだったからだろう。不思議な夢を見た。

ベットから立ち上がって朝の身支度をすばやくすませる。受験生の朝は想像以上に忙しいのだ。

学校に着いた時間はいつもどおりだった。家を出た時刻は普段より数分遅(おそ)かったのだけれど。少しだけ早歩きをしたおかげかもしれない。