家々の窓からこぼれる光は無くて、


レンガの道に規則正しく建てられた街灯による光だけが生きる街の中心地。

しんと静まる深夜の街の中心地。


1人の男が少女の家の前に立つ。


「…ここかぁ……逃げたって無駄だからな……ひひっ」

薄汚れたコートを羽織った痩せ男が古びた木で作られた扉に手を掛けた。


“ギシ……”


軋む扉の音にビクビクしながら開けようとするが、微動だにしない。


「…チッ……どこまで小賢しい奴だ。」


男はポケットから細長い鉄を取り出す。

それを鍵穴に差し込むと小刻みに動かした。



“カチッ…”


鍵が開いたのだ。



「…ヘヘッ」



“キィ……”


男が再び扉に手を掛ける。



扉は開いた。



男は知らない。





この空気を少しだけ動かす小さな音で目を覚ました少女の事を。