何度も何度も〝行かないでほしい〟という言葉が頭の中に浮かぶ。喉元までその言葉はやってくるのに、真樹を目の前にすると、どうしても意地を張ってしまって、もう少しで吐き出せそうな素直な気持ちを飲み込んでしまう。


「河合」

「あ、清水」

資料室から資料を抱えて出る。すると、ちょうど廊下をこちらへ向かって歩いてきていた清水と鉢合わせた。

清水は、営業帰りなのか額にうっすらと汗を浮かべている。


「流石、エリート営業マンは今日も忙しそうだね」

冗談っぽく笑って言うと、清水は「先輩に追いつくのに毎日必死だよ」と歯を見せて笑った。

あの飲み会以来、こうしてしっかり清水と話すことはなかった。偶然、社内で二人きりの状態で鉢合わせることはなかったし忘れかけていたけれど、あの日、改めてアプローチされたんだったっけ。なんて、今更思い出した。


「荷物、持とうか?」

清水の視線がゆっくり私の手元に移った。私の両手に抱えられた資料の山を見た彼は、そう言うと手にしていた黒いバッグを腕に通し始める。


「別に良いよ、そんなに重くないし……って、あ」

「うわ、普通に重いじゃん。こんなの一人で抱えてどこまで行くつもりだったんだよ」

すっと、私の抱えていた資料の半分以上を持ち上げ、抱えた清水は目を丸くして私を見た。