花粉症シーズン真っ最中。電車内にもマスクをした乗客が目立つ。
 日経電子版を読みながら、先週聞いた人事異動について思い返す。

 ――うちの課に追加……ですか?
 ――今年は新人ももらえなかったし、このままの体制でいくと思ってたろ? サプライズだよ。
 ――どこの部署から?
 ――関西。広域営業。
 ――営業からの転身ですか。アドバイザーは誰になります?
 ――いや、そういった指導は必要ないかな……多分。まぁ、会田(あいだ)、仲良くやってくれ。

 岸川(きしかわ)課長の言葉に歯切れの悪いものを感じたけれど、いざメンバーが来ればわかると思い、追及はしなかった。
 半年前に課長代理になったわたしが直面しているのは、ひとことで言うとお金の問題だ。
 今期の売上目標、具体的にはSE粗利の前年比5%アップをどうやって達成するか。
 しかも労基法うんぬんの問題もある。課員の残業を減らさなければならない。
 課は人手不足で、目標達成のためには魔法が必要なレベルだけど、人事異動で頭数が増えるのを単純に喜べるかといったらそうでもない。要は使える子が来ればいいな、というのが本音。
 楽しみと不安がマーブル模様の月曜日。
 不意に電車が揺れ、乗客がひとかたまりとなって雪崩のようにのしかかってきた。
 重い。右手は鞄の重量に加えて、他の客数人分の体重を支え、ちぎれそうになっている。
 がんばれわたし。今こそ筋トレの成果を示すとき。
 とても見ていられなくなったスマホを鞄にしまい、吊革を握り続ける。身体の角度は時計の針でたとえるなら七時十分くらいになっていて、血の気を失った指先は冷たい。
 とにかく四月の混雑はひどい。首都圏の私鉄では、朝夕のラッシュ時間帯に女性専用車両が設けられている路線もある。でもわたしが通勤に使うJRの路線では、男も女も老いも若きもぎゅうぎゅう詰めになって都心へと運ばれてゆく。毎日の通勤にグリーン車だなんて、そんなぜいたくを許せる身分じゃない。
 今年で勤続十年目。この先何年か経って課長になれたとしてもグリーン車通勤は無理だろう。女性初の部長になってから考えよう――って、わたしそこまで昇進してもまだ実家から通ってるの? 自分の想像にめまいがした。
 何か仕事以外の楽しみが欲しい。
 お稽古とか趣味は難しいけれど、せめて有給は消化したい。