お兄ちゃんを叩いてしまった。
お兄ちゃんが家を出た理由だって知ってるのに。

公園のベンチに座りながら、自分の手を見ると少し赤くなっていた。

「……最低だなぁ、私」

晴くんたちにも内緒にしてて、きっと見放されただろうか。

こんな面倒やつと関わりたくない、とか思われたんだろうか。

それもそうだよね。
いつか記憶がなくなるやつと一緒にいても、楽しくないもんね。

そう思うと、涙が出てきた。

まだ、晴くんたちとは離れたくない。

晴くんの笑った顔がまだ撮れてない。
茉莉ちゃんとまだお出かけしたい。
翔くんとまだお話したい。






_______________彩月っ!






「えっ……」




迎えに来てくれたんだ。
名前を呼んでくれたんだ。





「勝手にいなくなるなんてバカじゃないのっ!」


そう言って、駆け寄ってくる晴くん。


晴くんがこんなに必死になってるの見たことないかも。

「…ごめんなさい………」

「あんたねぇ、変な事考えてんでしょ!俺たちが離れてくとか思ったんじゃないの!」


「俺たちは別に病気とかだからって離れるわけないでしょ!」


それは、一番欲しかった言葉で。


「記憶がなくなったんなら、また作ればいい 」


そして、一息置いてから。


「みんな探してるんだからさぁ ほら、家に帰るよ」


そう言って、手を伸ばす晴くん。


「…ぃの?」

「何?」

「いいの?いつか忘れるかもしれないのに」

「だから、その為にあんたは写真撮ってんでしょ」

何回でも思い出させてやる、と不敵な笑みを浮かべている。

私は、何度晴くんに助けられればいいのだろうか。


「ありがとう、晴くん」



帰ったら、お兄ちゃんも含めてすべて話そう。


私の、過去のお話を。