放課後のいつもの時間にいつもの場所。
わたしはいつものようにぼんやり塀にもたれて、待ち合わせ場所に有宮くんが来るのを待っていた。
……遅いなぁ。
いつもなら携帯をいじりながらひょっこりやってくる時間なのに。
いつもの時間を過ぎても、有宮くんが現れる気配はなかった。
何度も携帯を確認するけど、連絡のメールも電話ない。
薄暗くなり始めた夕暮れの空も、口から出る白い息もそろそろ見飽きてきた。
なんて思っていたわたしの方へ、見覚えのない男の子が歩み寄ってくる。
「水原さん」
「……えっ」
……この人、わたしの名前知ってる。
なんの躊躇いもなくわたしの名前を呼んだ彼の顔を、必死で思い出そうとしてみるけど……見覚えがなかった。
わたしの名前を呼んだ見覚えの無い彼を、思わずポカンとした表情で見上げてしまう。
そのわたしの顔を見た彼がクスクスっと小さく笑った。
「俺、善雅の友達」
「あっ、有宮くんの……」
だから彼はわたしの名前を知っていたんだ。
それにしても有宮くんの友達にしては、雰囲気の柔らかい人だ。
綺麗だけどトゲトゲしい有宮くんとは全然違う、優しくて物腰の穏やかさを感じる。
「城崎 紘也。善雅と一緒の2組」
「あっ、5組の水原 日菜琉です」
にこっと微笑みながら丁寧に自己紹介してくれる城崎くんにつられて、わたしも慌てて軽く頭を下げた。
「善雅のこと待ってるの?」
「うん」
「連絡は?」
「……まだ」
反射的にまだって言ったものの、連絡があるのかどうかすら危うい。
思わず口を噤んだわたしに、目の前の城崎くんは大きなため息をついてみせる。
「あいつ今、教室で補習中なんだ」
そう言って城崎くんは、斜め前の校舎の方を指さした。