くっと息を呑んで。

今朝渡されたばかりのカードを、セキュリティシステムに翳す。ピッ、という音のあとに扉からガチャリと音がして、解錠されたのがわかった。



……本当に、来てしまった。

誘われたんだから断るわけには、いかなかったんだけど。



いや、本当は断る余地もなかったんだけどね。



「……なんか、なぁ」



それはもう、ひたすらに女の子たちからの視線が痛かった。

あの珠王先輩がわざわざ教室にやってきた挙句、わたしに直接ここへ入るためのカードを手渡した。



その事実は、またたく間に噂となって全校生徒に知れ渡ってしまったのだ。

おかげでここに来る間に、何度睨まれたか。



「姫川」という名前だけで彼らのそばにいるのを許されたことを、よく思ってる人なんか、どこにもいない。

それほどまでに、彼らは特別で。




「……失礼します」



長い廊下を進んで、昨日おとずれたリビングの扉をノックする。

先に顔だけを覗かせれば「あらいらっしゃい」と優しく声をかけてくれる女王先輩。そして。



「姫川先輩、紅茶お好きですか?」



ソファに促しながら聞いてくるのは、今日もまわりに薔薇を舞わせてるんじゃないかってほど優雅に笑ってくれる王子様こと八王子ルノくん。

窓から差し込む太陽の光まで味方につけて、ブラウンアッシュの髪がふわりと揺れる。



「紅茶……? うん、好き、だけど」



「それならよかったです。

僕が個人的にコレクションしてるだけですけど、紅茶の種類は豊富に揃えているので。よければ、いつでもリクエストしてくださいね」



「へえ……あ、凄い。

本当にたくさん揃えてるのね」