「おかえりなさい」と、ほのぼのした笑顔でルアに迎えられる。

それに「ただいま」を返せば、夕陽がどことなく不機嫌そうに「話終わったの?」とわたしを見た。その視線の先は一向に、兄には向けられない。



「うん、終わった。

……それより夕陽、仕事とか大丈夫なの?」



「……マネージャーがそろそろ迎えに来る」



ぼそっと答えた夕陽は、惜しむようにわたしを見て。

それから手の甲にキスを落とす姿が、王子様みたいに見えた……気がした。



「くちびるにしたかったけど、怒られるから」



偉いでしょ?って言わんばかりの笑顔を見せて、夕陽は「仕事行ってくる」と部屋を出ていった。

ソファの上には天使がふたり眠っていて、どうやらわたしと夕帆先輩が話をしている間に疲れて眠ってしまったらしい。



そんな中「どうだった」と静かに声を落としたのは、いつみ先輩で。




「俺女装やめるわ、いつみ」



「………」



「やっぱりお前の探してたお姫様は、

たぶん南々瀬ちゃんで間違いないと思う」



それを聞いてわたしを見るいつみ先輩にこくこくとうなずけば、彼は「そうか」と短く返事した。

本物の姫が現れたのなら、もう夕帆先輩が女装して女除けになる理由はない。



いくみさんのことは?と首をかしげたら、彼は「ちゃんと告ることにした」と告げる。

そういえばふたりは両想いらしいけど。



きっといくみさんの「抱いて」という一言は、

好きだった夕帆先輩への、精一杯の告白だったんだと思う。



「間違いないって……

夕帆、直接南々瀬に聞いて確かめたってことかよ?」